■閖上
名取の海岸の並木道には、誰かが植えたのか、ひまわりの花が沢山咲いていました。
こんなに寂しいひまわりを僕は今まで見たことがありませんでした。
仙台に前のりして、時間があったので隣町の名取市の海岸まで歩きました。
ところが歩けども歩けども海岸に着かず、ああ、いったい僕は何をしに来たんだろう、もう引き返そうかと自問自答し始めたころに、やっと海沿いの閖上(ゆりあげ)というところの近くに出ました。
国道を一本隔てて、海沿いには草むらが広がっていました。よく見るとひとつひとつ家の基礎が残っています。
かつては住宅地だったのです。
振り返って空を見ると、雲が一筋に割れて、光の帯が無数に遠くの山に落ちていました。もうこの世のどんな神様でも、仏様でもいいから、皆が不幸なく暮らせるようにしてほしい、そんな風に思いました。
しかし、そんなことは部外者の勝手な想いなのかもしれません。
仙台は、今好景気で街には人があふれていました。
夜、ダンスワークショップ講師のアオキさんと落ち合って、ふたりで食事をしながらいろいろと話をしました。旅の話、表現の話、どれをとっても共感できるものが沢山あり、今年始まった新しいご縁の素晴らしさを再確認出来ました。
■アオキさんのダンスワークショップ
今回の企画は、宇都宮大学のあるゼミが作っている被災地の小学生のためのサマーキャンプの一内容として、宮城県は亘理(わたり)町というところにある逢隈(おおくま)小学校にて、ダンスのワークショップを行おうというものです。
2日間行われ、午前中が保護者向け、午後が児童向けでした。
簡単なゲームをしながら身体をほぐして、グループごとに植物をイメージした踊りとか、機械をイメージした踊りとか、テーマを決めてダンスを作っていき、最後に僕の歌う曲に合わせてそれを皆の前で披露しました。
大人向けには、少し難しく、観念的な講義も交えながら行いました。
人の行動は「感情」、「意志」、「思考」という3つの要素から出来ている。
今は知識を蓄えること(思考)のみが尊重されているけれど、本当に大切なのはそれぞれがバランスよく行われることであって、周りで起こっている事に感情を持って反応し、意志を持って行動し、思考を持って抑制できる、その上でどのように日々の行いを表現していくか。
つまり生きることそのものが「踊る」という事なんだよという、アオキさんの話に、僕も非常に共感しました。
参加したお母さんの中には今まで溜め込んでいた思いがあふれて涙する方もいて、僕はアオキ先生のダンスという楽しみを通じて導く「何か」の表出に深く感動しました。
それは音楽にだって当然ながら存在するものなのに、どうして僕はそんなシンプルなことを今まで後ろめていたんだろうと、自分の演奏を見直しました。
つづく
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