かつては栄えたであろう、いやひょっとしたら、
ずっとひなびているのかもしれないそのホテルは、
1、2階にはもう何十年もやっているスナックやすし屋や、
誰のためにあるのかわからない歯医者や仕立て屋などが、
ひっそりとならんでおり、
(お客さんがいるところを一度も見たことがない)
まだタスポの導入されない(!)たばこの自販機が現役で動いている。
僕が幼いころのまま完全に時間が止まっています。
問題のお風呂は…、
少し新しいロッカーが導入されたり、
柱の一部が塗りかえられたりしてはいるものの、
打ちっぱなしのサウナも、
修復だらけのタイルも、
洗い場も、
トイレも、
足ふきマットも、
まったくそのまますぎて、
つい昨日まで毎日来ていたような錯覚すら覚えました。
しかし体を洗って、サウナに入って、お風呂につかっていると、
なんだか子供のころの父との思い出がよみがえってきました。
はしゃぎまわって怒られた記憶。
知らないおじさんに亀の子だわしで背中をこすられた記憶。
当時初めて登場したポカリスウェットというものを飲んで、
なんだか変な味だなあと思った記憶。
小さかったのでお漏らしして、
みんなに後始末してもらった記憶。
ガラスに張ってある、ビジネスホテルには不似合いな、
魚やサンゴのシールは、ひょっとしたら僕のためにホテルの人が、
貼ってくれたのかもしれない。
無意識のうちに、そこに集まる男たちを見て、
自分も男性としての素養を身につけたような気もします。
父の数十年と僕の十数年も、ここに思い出として、
詰まっているのだと思うと感慨深いものがありました。
東京の中心から、急に浜松の田舎に転任になって、
さしたる楽しみも少なかったであろう父の、
心の発散の場だったでしょう。
大切な場所がなくなるのはさびしくもありますが。
男たちの今は…、近所の別のスーパー銭湯に集まって、
また裸の付き合いをしているようです。
年末の、一つの感傷でありました。
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